腎臓病の進行を遅らせるために何かできることはないのでしょうか? 今回は運動療法のお話です。
腎臓が悪い方は運動をして良いのでしょうか?かつては、運動をしてはいけないと国の指針で指導されていました。昔、小学校や中学校で体育の際に見学をしている学友はいませんでしたか?
もともと欧米では、腎疾患に対する運動制限には根拠がなく、制限を行わないことが一般的でした。一方、わが国では腎臓病は不治の病とされ、運動制限をしてきた歴史が存在します。
しかし、腎臓病も不治の病ではなくなり、運動制限に関して意識を変革する時代となり、しかも近年「適度な運動は腎疾患をもつ患者の腎、生命予後を改善する」とする報告が相次いでなされ、腎臓リハビリテーションという概念ができました。「慢性腎臓病=運動をするな」から「慢性腎臓病=運動を積極的にしましょう」とする、まさにコペルニクス的転換を果たして数年が経ちます。
小生の手元には1997年の日本腎臓病学会誌に掲載されている「腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン」(1)があります。その一部を抜粋して掲載します(表1、2)。
まず、表1をご覧ください。必ずしも一致はしませんが、当時記載されていたクレアチニンクリアランスによる腎機能分類を、現在汎用しているCKDグレードに当てはめて判断することにしましょう。例えば軽度腎機能低下とされるグレード3a(CCで51-70)を見てください。高血圧があり、かつ蛋白尿が1g以上の場合はC、それ以外はD区分となっています。
表2には当時の指導区分表を記載しましたが、運動に関して、水泳、登山、スキー、エアロビクスはできないこととなっています。
許されているのは5-6メッツ(メッツは運動強度を表すもので表3に記載しています)以下の運動しかできないことになっています。さらに高血圧があり、かつ蛋白尿1g以上の場合には早足散歩か自転車(4-5メッツ以下)しかできないことになります。水泳、登山、スキー、エアロビクスと言えば、今や有酸素運動(後で述べますが)の代表的運動であり、脂肪燃焼、体重減少にはもってこいとされていますが、それもできないとなると、このあたりの腎機能の方は厳格な食事制限をしなければ太る一方だと言えます。
一方、運動は筋肉量を維持するには必要です。よって、フレイルと呼ばれる脆弱な患者さんが増加します。
その後、運動は腎臓病の悪化を促進しないばかりか、GFRの改善も来すという報告がみられるようになり、むしろ運動は推奨されるようになりました。現在では日本腎臓リハビリテーション学会が編集した「腎臓リハビリテーションガイドライン」という教科書があります。いくつか代表的な声明を記載します。
- 糸球体腎炎
状態の安定している慢性の糸球体腎炎の患者さんには運動の制限を行わない。 - ネフローゼ症候群
安静にしておくことや、運動を制限することの効果は明らかではないために、必要以上に安静を指示することや、運動の制限を行わない。 - CKD保存期
運動能力や身体機能に関するQOL(生活の質)を改善・維持する可能性があるだけでなく、eGFRを改善する可能性も示唆されたことから、無理のない範囲で有酸素運動を行うこと。 - 透析期
運動耐容能、QOL、身体能力(歩行機能、能力)が運動療法により改善する。 - 腎移植期
腎移植患者において運動療法を実施することを提案する。ただし、まだ根拠が乏しく条件つきで。
とあります。では、具体的にどの程度の運動が必要なのでしょうか。表4のCKD患者さんに推奨される運動処方をご覧ください。大雑把に言えば、中等度強度の有酸素運動(ウォーキング、サイクリング、水泳など)20-60分を週3-5日、最大強度の65−75%程度のレジスタンス運動(トレーニングマシーン、ウエイト)10-15回を1セットとして何セットかを週2−3日。さらに柔軟体操を週2-3日行うのが良いとされます。
CKD患者さんへの有酸素運動の効果は、下の図をご覧ください。有酸素運動を行った群は、行わなかった群よりeGFRが低く、1年間で減少が明らかであったにもかかわらず、運動を開始したことにより1年間でeGFRは徐々に改善し、最終的には有酸素運動を行わなかった群と同等であったとされています。希望の持てる報告であると言えます。
少し難しくなりましたが、まとめると、CKD悪化防止のためには、「最低でも週3回30分以上の有酸素運動と、繰り返す筋トレをストレッチングと併せて行いましょう」ということになります。もちろん、合併する急性疾患(炎症、悪性腫瘍その他)、心不全、整形外科的疾患で運動に制限がある場合もあります。主治医とご相談ください。
なお、終わりに子ども達の、学校検尿のすべての平成23年度改定では腎疾患の児童生徒の生活も随分変わっています(表5)。もう運動が制限されている子どもはあまりいないはずです。