腎臓病の進行を遅らせるためにできることはないのでしょうか? 薬物療法に引き続き、今回は食事療法のお話です。
生きていくためには毎日欠かせない食事ですが、当然それを見直すことは、慢性腎臓病‐CKDの進行を遅らせることにつながります。場合によっては、腎糸球体濾過率‐GFRを改善することができます。CKDに対する食事療法は以下の通りです。1.では日本腎臓学会推奨の方針、2.ではその他の方針を述べます。
その前に、今一度、CKDの腎臓の状態をご理解ください。図1に示しますが、すでに前の章で述べたとおり、おしっこの工場であるネフロンが徐々に減少した状態がCKDであるといえます。
この状態を皆さんの職場に例えると、職員が1人減り、1人減り、だんだん残された職員に負担がかかっている状態です。よって、それ以上に負担をかけない仕事量が必要となります。
図1
1.日本腎臓学会推奨の方針
残ったネフロンに負担をかけないためのCKDに対する食事の基本は、食塩、蛋白質、糖質、脂肪を控えるに尽きます。
表1に、日本腎臓学会推奨のCKDグレード別のエネルギー摂取量、蛋白摂取量、食塩摂取量、カリウム摂取量を掲載しました。どのようにお感じになられているでしょうか。とくに塩分は想像以上に厳しいと思います。当院では外来で患者さんの食塩摂取量を計算していますが、何も注意をしていない大人では、1日10gを超えることも珍しくありません。
例えば、カップラーメンの栄養成分表を見ますと、一食で食塩相当量がおおよそ5gとなっています。これもおおよそですが、麺とスープで半々ということになっています。
つまり、スープまで飲み干してしまえば、目標とされている1日摂取量6g(最大)の大半をカップラーメン一食でとってしまうことになります。いかに食塩摂取量が厳しいかがわかります。しかし、スープを残すだけで、まだ余裕があります。
そのほか、適正なたんぱく質摂取、適正なエネルギー摂取ということになります。腎機能がかなり障害されてくるとカリウムの制限も必要となってきます。
表1 日本腎臓学会による推奨エネルギー摂取量、蛋白摂取量、食塩摂取量、カリウム摂取量
CKD グレード |
GFR | エネルギー (kcal/kgBW/日) |
たんぱく質 (g/kgBW/日) |
食塩 (g/日) |
カリウム (mg/日) |
---|---|---|---|---|---|
G1 | ≧90 | 25~35 | 過剰な摂取をしない | 3≦ <6 | 制限なし |
G2 | 60−89 | 過剰な摂取をしない | 制限なし | ||
G3a | 45−59 | 0.8-1.0 | 制限なし | ||
G3b | 30−44 | 0.6-0.8 | ≦ 2000 | ||
G4 | 15−29 | 0.6-0.8 | ≦ 1500 | ||
G5 | <15 | 0.6-0.8 | ≦ 1500 |
2.その他の方針
a. 血中の尿酸を減らす
尿酸はあらゆる細胞の中に含まれる代謝物質です。これは腎臓から排泄されるので、腎機能が悪化してくると蓄積されます。
しかし、逆の現象もあります。尿酸は腎機能を障害するといわれています。CKDガイドライン2018では、「高尿酸血症を有するCKD患者に対する尿酸低下療法は腎機能悪化を抑制し、尿蛋白を減少させる可能性があり、行うよう提案する(C2)」とされています(弱い推奨ですが)。
最近の研究では、尿酸低下薬を服用した群と、服用していない群とは、腎機能の変化は差がないとされています。しかし、実際の外来では、尿酸が下がったことで、クレアチニンが低下する患者さんを見ることは少なくなく、今後の検討を待ちたいと思います。なお、尿酸の値を下げるには低プリン体食が理想です。
b. 脂肪・糖質を減らす
肥満は腎機能に良くないことは、何となく印象として理解していただける方が多いと思います。良く患者さんに車に例えてお伝えするのですが、軽自動車の660ccのエンジンをトラックのボディに乗せて走ることは、エンジンの耐性に問題があることは想像できると思います。エンジンは常に高回転で頑張らなければならないので、早々に故障することになります。よって、脂肪や糖質を控える、つまり痩せることは腎臓を守ることになります。さらに腎臓の血管を障害する高脂血症や糖尿病も改善できることから、長期の腎臓へのダメージも避けられます。
c. 本日の私
今日私は、朝はプレーンヨーグルトを200g食べ、昼はカップラーメンを食べました。図2 A、Bに示すとおり、昼御飯後までの蛋白質摂取量は13.4g、食塩は2.33g(汁を飲まなかったので)となっています。私はCKD G2なので、蛋白質は良しとして、夕食の塩分はあと3.7gまで取れます。何となく可能そうですが誘惑に勝てるでしょうか。皆さんも食品の成分表に気を付けてみると、摂取量に関して身近に感じるようになるかもしれません。図3に示すとおり、くれぐれも食塩、蛋白質、糖質、脂質の取り過ぎを避けて、肥満とならないようにしたいものです。
図2
A:某社のヨーグルトの栄養成分
B:某社のカップラーメンの栄養成分
図3