腎臓病の進行を遅らせるために何かできることはないのでしょうか? 今回は薬物療法のお話です。
まず、腎臓病の原疾患を把握し、治しましょう。例えば、高血圧により動脈硬化が進み、腎機能が悪くなっている場合であれば、血圧を下げる薬を服用します。高脂血症による動脈硬化が理由であれば、脂質を下げる薬を服用します。また、腎臓自体が攻撃されて腎機能が悪くなっている慢性糸球体腎炎などでは、その治療を行います。糖尿病による腎障害であれば、糖尿病の治療を行います。腎移植を受けた方の移植腎機能が悪くなり、腎生検で拒絶反応があることが分かった場合には、拒絶反応の治療をします。
しかし、これらも含めて、いわゆる慢性腎臓病-CKDを完全に改善する、つまり血清クレアチニン値を大幅に改善して、若い頃の数値に戻すというお薬は、基本的には存在しないと理解してください。
しかし、腎臓病の進行を食い止める薬剤はいくつかあります。以下にご紹介します。有名なものとしては、高血圧の薬剤が2系統、糖尿病の薬剤が1系統あります(表1)。
表1 腎機能の悪化を食い止める薬剤
種類 | 副次効果 | 副作用 | ||
---|---|---|---|---|
1 | ACEI | 数種類 | 蛋白尿の減少 | 浮腫、貧血、Crの上昇 |
ARB | 数種類 | 蛋白尿の減少 | 浮腫、貧血、Crの上昇 | |
2 | SGLT2I | 数種類 (糖尿病を持たない方への適応は1種類) |
蛋白尿の減少 体重の減少 耐糖能の改善 |
尿糖が増加するので尿路感染症の可能性 使用開始後一時的にCrの上昇 |
3 | その他 | オウギ末 | 蛋白尿の減少 | 満腹感 |
1.レニン-アンギオテンシン系阻害薬
腎臓が悪くなってくると、腎臓は血液をより多く要求し、血圧を上げようとします。このときにレニン-アンギオテンシン系という血圧調整システムが亢進しています。これらを下げる降圧薬の総称です。
アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、アンギオテンシン受容体阻害薬(ARB)の2系統があり、各々数種類の薬剤があります。
2.SGLT2阻害薬(SGLT2I)
腎臓の尿細管(腎臓の内部の尿の成分を分泌あるいは吸収している部位)には、糖を吸収するメカニズムが備わっており、血糖値の急激な低下を押さえる働きをしているとされています。同時に塩分(Na, Cl)の吸収もなされ、血圧も維持されます。ここに存在する酵素がSGLT2です。これを押さえると、その結果としてブドウ糖の尿中の排泄が増えることで血糖値を下げるため、糖尿病の薬として広まっています。その内の何種類かの薬剤は、使用している糖尿病性腎症の患者さんの腎症の進行が緩徐であることが判明し、糖尿病性腎症に保険適用が追加となっています。さらに1つの薬剤では、糖尿病ではない腎臓病の患者さんでも有効であることが判明し、糖尿病に関係無く、腎障害を抑える働きに対して保険適用となっております。
3.その他
漢方のうちのオウギというものがありますが、当院ではオウギ末を腎機能が落ちた方に処方することがあります。尿タンパクは減少し、クレアチニンも低下します。なお、そのメカニズムは判明していません。
さて、上記の1, 2の薬剤がなぜ、腎臓を保護するのでしょうか。以下の絵をご覧ください(図2)。
図2
図は液体を濾過しているところを表しています。腎の尿の産生工場である「ネフロン=糸球体+ボウマン嚢」と考えてください。フィルターが糸球体、じょうごがボウマン嚢を表しています。上記の薬剤は結果的にじょうごの出口を広げる働きがあります。
それまで、狭い出口に圧力を上げて濾過していたものが(図3a)、出口が広がったことで、緩い力で濾すことができるようになります(図3b)。「圧力」とは即ち血圧であり、また重さでもあり、蛋白質の多い血液もこれに当たります。圧力が高いまま濾過していると、フィルターが痛みます。その穴も広がります。その結果として、糸球体から蛋白が漏れて蛋白尿が増加し、糸球体もやがて壊れてきて残った糸球体にさらに負担がかかり、悪循環が始まります。
a.
b.
図3
よって、血圧を下げること、蛋白質の多い食事を控えること(もちろんGFRによりますし、かつてよりは制限をしなくなりました)は腎臓を守るためには理にかなっています。